ある事情に結婚を機に、昨日までの自分を脱ぎ捨てようとする人もいる。私の友人など、まさに脱ぎ捨てるために結婚した。ただし、彼女の場合、脱ぎ捨てたかったのは昨日までの自分ではなく、会社から支給されていた制服だったのだが…。彼女は晴れて一流商社に就職できたにもかかわらず、職場がいやでいやでたまらなかった。お給料もよく、労働条件も申し分ないのに、会社の仕事がどうしても好きになれない。とくに制服のまま買い物に行かされるのがつらくてつらくてたまらなかったのだという。「そんな贅沢な」と言うのは簡単である。しかし、彼女にとっては真剣な悩みだった。そうこうするうち、朝、会社に行って制服に着替えていると、吐き気がこみあげるようになった。彼女には制服を着たOL生活がよほど肌に合わなかったのだろう。普段の彼女はそれほどワガママな人ではない。かといって、会社をやめるわけにはいかないのがつらいところだった。親戚のコネを使ってようやく得た職である。「制服がいやだからやめます」なんてこと、口が裂けても言えないではないか。彼女は悩んだ。悩み抜いた。なんとかして会社を好きになろうと努力も重ねた。吐き気をこらえて制服も着た。しかし、事態はまったく改善されることはない。ロッカールームでの吐き気はひどくなる一方だ。とうとう彼女は1つの結論に達した。結婚して寿退職すればいいと気づいたのだ。そうすれば、誰にも迷惑をかけずに制服を脱ぐことができる。善は急げというわけで、彼女はさっさとお見合いし、晴れて制服を脱ぎ捨てるのに成功したのである。白無垢に身をつつんだ彼女に「おめでとう。よかったねえ」と言うと、ニッコリ笑ってピースサインを出した。本当にうれしそうな笑顔だった。そして、会社から自分を救い出してくれたご主人に感謝しながら、その後の結婚生活を送っている。
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