彼の父は、老舗といわれるブティックを経営する名の知られたファッションデザイナーで、一人息子の彼を溺愛していた。おしゃれはパパの御墨付き、筋金入りだったのだ。だからだろうか、彼の中には「その辺のロック野郎とは違うんだから」という意識が常にあるように思えるのだった。彼に釣り合う女の子でなければといつも私は考えた。その時パッと頭に浮かぶイメージはこんな感じだ。真っ直ぐな長い髪。スキニーな体にぴったりしたTシャツ。コーデュロイのパンツのひょろりと長い脚には、スニーカーがよく似合って……。サラサラした髪を揺らして、彼と並んで風のように歩く。華奢で、ちょっとコケティッシュなジェーン・バーキンのような女の子。そういう子は一見さっぱりして見えるが、実は誰よりもナルシストである。それでも男の子は、そんな女の子にミステリアスなものを感じて、翻弄されたがるものなのだ。それに比べて私は、ただ真面目なだけの、ちょっと考え過ぎの気のあるつまらない女だった。なのになぜ、彼は私とつき合うのだろう。しかしつき合うからには、それに応えなくては、とも思う。そしてそう思えば思うほど気負ってしまい、コーディネイトはいつも失敗するのであった。「じゃあ、一時間後にね」そんな私の気持ちも知らず、彼の電話はあっさり切れる。受話器を置くやいなや、私は自分の部屋に飛び込む。時間がない。でも、約束をもっと後の時刻にしてと、言うことなどできなかった。「ええと、なんだっけ、なにを着ればいいんだったかしら」この間友達に褒められたカナリヤ色のセーターに、茶色のヒップホーンのパンツ、それに太いベルトをしてと、セーターに袖を通した瞬間、前回のデートの時にそれを着ていたことを思い出す。だっ、だめだ……。あわててセーターをかなぐり捨てる。ほかに気に入った組み合わせはなかったかしら。いつも自信をもてる服はどれだったのだろう。焦れば焦るほど、どれもこれも野暮ったく思えてくる。待ち合わせの時間はどんどん迫ってくるというのに。